なぜ遺言執行者が必要なのか
遺言執行者とは
遺言執行者とは、遺言書に記載された内容を具体的に実現するために、必要な一切の解約・名義変更手続きや財産管理を行う権利と義務を持つ人物を指します(民法1006条、1012条)。 遺言書が残されていても、自動的に預貯金が分配されたり不動産の名義が変更されたりするわけではありません。誰かが金融機関や法務局に出向き、必要な書類を提出して手続きを進める必要があります。遺言執行者が指定されている場合、相続財産の管理や遺言の執行に必要な手続きは、すべて遺言執行者が単独で行うことができます。 主な仕事内容には、以下のような手続きが含まれます。
- 相続人の特定および戸籍謄本等の収集
- 相続財産の調査および財産目録の作成・相続人への交付
- 預貯金の解約、名義変更、払戻し手続き
- 不動産の所有権移転登記手続き
- 株式や有価証券などの移転・売却手続き
- 遺贈(相続人以外の第三者への財産譲渡)に関する手続き
- 遺言内容に基づくその他の手続き(子どもの認知や相続人の排除など)
遺言執行者を指定しないリスクとは
遺言書の中で遺言執行者が指定されていない場合、遺言内容を実現するための各種手続きは、原則として相続人全員が共同で行う必要があります。これにはいくつかの大きなリスクやデメリットが伴います。 第一に、手続きの負担が非常に重くなる点です。平日の日中に銀行や法務局へ何度も足を運び、膨大な書類を揃える作業を相続人の誰かが担わなければなりません。 第二に、相続人の中に遺言内容に不満を持つ人物や協力しない人物がいる場合、手続きが完全にストップしてしまう点です。預貯金の払戻しや不動産の登記において、相続人全員の署名や実印の押印、印鑑証明書の提出を求められるケースが多く、一人の不協力によって遺言書通りの財産分配が困難になります。 第三に、子ども以外の第三者への遺贈や、子どもの認知、相続権の剥奪(相続人の排除)といった特定の事項については、法律上、遺言執行者でなければ手続きを進めることができないという法的制約が存在します。
遺言執行者の選び方
遺言執行者は、未成年者および破産者を除き、基本的には誰でもなることができます(民法1009条)。一般的には、家族や親族を指定するケースと、弁護士などの専門家に依頼するケースの2つに分かれます。
家族・親族を指定する場合
配偶者や長男など、信頼できる家族や親族を遺言執行者に指定する方法です。 メリットとしては、遺言執行者に対する特別な報酬を支払う必要がない、あるいは低額に抑えられる点が挙げられます。また、家庭内の事情や財産の状況をある程度把握しているため、心理的なハードルが低く依頼しやすいという特徴があります。 一方でデメリットも存在します。専門知識がない身内が解約や登記手続きを行うのは精神的・時間的に大きな負担となります。さらに、遺言内容が特定の相続人に有利なものである場合、遺言執行者に選ばれた身内が他の相続人から不当な不信感や感情的な反発を買い、親族間の対立が深まる原因になりやすいという側面もあります。
弁護士などの専門家を指定する場合
遺言書の作成段階から、弁護士などの専門家を遺言執行者として指定しておく方法です。 最大のメリットは、第三者としての客観的かつ公正な立場で、法的に確実な手続きを迅速に完了できる点です。複雑な権利関係の整理や不備のない書類作成を任せられるため、相続人全体の負担を大幅に軽減できます。また、不満を持つ相続人からの不当な圧力に対しても、法律に基づいた毅然とした対応が可能です。 デメリットとしては、遺言執行完了時に所定の遺言執行報酬が発生する点が挙げられます。一般的には遺産総額の一定割合や規定の基本料金が設定されます。
どのような場合に弁護士などの専門家に依頼する方が良い?
以下のような条件に当てはまる場合は、家族間での揉め事を防ぎ、スムーズな手続きを行うために弁護士などの専門家へ依頼することを強くお勧めします。
- 相続人同士の関係が悪く、感情的な対立や話し合いの難航が予想される場合
- 特定の相続人に多くの財産を譲るなど、不均等な配分を行う内容の遺言である場合
- 子ども以外の第三者、孫、内縁の配偶者、あるいは団体へ遺贈(寄付)を行いたい場合
- 不動産が複数ある、未上場株式が存在するなど、遺産の種類や権利関係が複雑な場合
- 相続人全員が高齢である、または遠方に住んでおり、手続きの実行が困難な場合
- 子どもの認知や特定の相続人の排除など、法的効力の強い内容を含む場合
遺言執行者を決定した後に生前準備すべきこと
遺言執行者を指定しただけで安心してしまうのは早計です。亡くなった後に遺言執行者が速やかに業務を開始できるよう、生前のうちに以下の準備を整えておくことが大切です。 第一に、遺言執行者との事前の意思疎通と就任承諾の確認です。勝手に指定された人物は、相続発生後に遺言執行者への就任を辞退することも可能です。そのため、あらかじめ本人に依頼し、就任の同意を得ておく必要があります。第二に、財産目録の作成と関連書類の一元管理です。所有している金融機関の口座、保管場所、不動産の登記識別情報(権利証)、保険証券、社債や有価証券の情報を整理した一覧を作成します。また、借入金や未払い金などの負債情報も隠さず記録しておくことが重要です。 第三に、遺言書の保管場所の共有と通知方法の決定です。公正証書遺言を作成した場合は、原本が公証役場に保管されますが、正本や控えの保管場所を遺言執行者に伝えておく必要があります。万が一の際、誰がどのように遺言執行者へ連絡を入れるかという通知ルートも家族間で定めておきます。
遺言執行者の選任でよくあるトラブルと回避策
遺言執行者を決めていても、事前の想定不足によって手続きが滞るトラブルが生じることがあります。代表的なトラブルとその対処法について解説します。
相続人が勝手に財産を処分しようとするリスク
遺言書の内容を知った相続人が、自分に不利な内容であることに憤り、遺言執行者が手続きを行う前に被相続人の預貯金を引き出したり、不動産を勝手に売却・名義変更しようとしたりするトラブルが存在します。 法律上、遺言執行者が指定されている場合、相続人は遺産である財産の処分や、その他遺言の執行を妨げる行為を行うことができません(民法1013条)。相続人が勝手に行った財産の処分行為は原則として無効となります。 このトラブルを防ぐための実務上の回避策としては、遺言執行者が就任後ただちに各金融機関へ遺言執行者就任の通知を送り、口座を凍結して不正な引き出しを防ぐことが重要です。また、速やかに相続人全員へ就任通知書と遺言書の写し、および財産目録を送付し、法的な手続きに入ったことを通知することで、勝手な行為を未然に制止します。
遺言書作成と遺言執行は、弁護士法人プレシャス総合法律会計事務所にご相談を
自身の思いを込めた遺言書を確実に実行し、遺されたご家族が不要な摩擦や煩雑な手続きに悩まされないようにするためには、適切な遺言執行者の選任と、法的に不備のない遺言書の作成が不可欠です。 自己流で作成した遺言書や、事情を考慮しない遺言執行者の指定は、かえって身内間のトラブルを激化させたり、手続きが途中で頓挫したりする原因になりかねません。 弁護士法人プレシャス総合法律会計事務所では、相続問題に精通した弁護士が、お客様のご家族関係や財産状況に応じた最適な遺言書の作成から、遺言執行者の引き受けまで包括的にサポートいたします。当事務所が遺言執行者に就任することで、公正中立な立場から迅速かつ確実に遺言内容を実現し、将来のご家族の安心とお手続の負担軽減をお約束いたします。 大切な資産を間違いなくご希望通りの形で引き継ぐために、遺言書の作成や遺言執行についてお悩みの方は、ぜひ一度、当事務所までお気軽にご相談ください。


